包丁が切れなくなっても、たいてい「そのうち研ごう」で終わっていました。切れないトマトを押しつぶしながら、それでも何年も先延ばしにしていた側です。
先日ようやく紙で試してみたら、刃が明らかに引っかかりました。これは自分がようやく砥石を調べ始めたきっかけで、研ぎ時を判定する一般的な方法として紹介するつもりはありません。
それで砥石を調べ始めたのですが、思っていたのと違う壁に当たりました。各メーカーの解説を読み比べていくと、番手の区切りも、研ぐ角度の目安も、研ぐ頻度も、会社によって言っていることが揃っていないのです。
この記事は、砥石を買う前に各社の公式解説を読み比べて、どこが一致していてどこが一致していないのかを整理したログです。自分はまだ砥石で研いでいないので、研いだ結果や切れ味の変化は書けません。書けるのは「調べた範囲で何が確かで、何が確かでないか」までです。
切れない包丁、何が起きているんでしょう
そもそも切れない包丁のまま使い続けると何が起きるのか。ここは一次情報が薄い領域でした。
包丁メーカーの實光刃物は、切れ味が悪い包丁について「切れ味が悪いと、力をグッと入れて切らないといけないため、ケガの原因になります」「切れない包丁は刃先が食材に入りにくく、滑ってしまうので、包丁の動きが安定しません」と説明しています。
ただしこの説明に、統計や事故データの引用はありません。消費者庁の子ども安全メールにはキッチンでの刃物によるけがの注意喚起がありますが、確認した範囲では「切れない包丁の方が危険」という趣旨の記述は見当たりませんでした。研ぐことを推奨する記述もです。
なので、ここで言えるのは「メーカーがそう説明している」までです。切れない包丁が危険だと断定できる公的な裏づけは、調べた範囲では見つかりませんでした。
自分の動機としては、危険だからというより「トマトが切れないのが面倒」という実利の側が大きかったです。

砥石の番手と種類、何を選べばいいんでしょう
ここが一番、各社で揃っていなかった部分です。
一致していること — 粗砥 → 中砥 → 仕上げ砥の3分類と、その使う順序です。貝印は「粒度の大きさによって荒砥、中砥、仕上げ砥の3種類に大別できる。刃こぼれした場合は荒砥を使い、中砥、仕上げ砥の順で研ぐ」としています。吉田金属工業も荒砥石を刃欠け・刃こぼれの修復用、中砥石を切れ味の回復用、仕上砥石をさらに切れ味を高める用途としており、藤次郎の区分も同じ並びです。刃こぼれがあるときは粗い番手から入る、という順序も共通しています。
一致していないこと — その3分類を区切る番手の数値です。
| メーカー | 粗砥 | 中砥 | 仕上げ砥 |
|---|---|---|---|
| 貝印 | 300〜400番 | 800〜1000番 | 2000〜3000番 |
| 吉田金属工業 | #200〜#600 | #1000程度 | #4000〜 |
| 藤次郎 | #80〜#400 | #600〜#2000 | #3000〜#6000(超仕上げ #8000〜) |
中砥の上限を見ると、貝印は1000番、吉田金属工業は#1000程度、藤次郎は#2000です。同じ「中砥」という言葉でも、上限の数値は最大で2倍違います。
最初の1枚 — 「中砥から」という結論自体は揃っています。貝印は「普段の研ぎ直しは中砥石で十分」、吉田金属工業は中砥(CERAX 1010)を日常の手入れや刃付けに適するとしています。ただし藤次郎は番手ではなく「基本的にはホーム砥石と呼ばれるものが最適です」と、砥石の硬さを選択基準にしていました。「軟らかめの砥石が多く、様々な包丁を研ぐことが出来る」「砥粒がたくさん出るので、研磨の効率も良く研ぎの感覚をつかみやすい」という理由です。選ぶ軸そのものが違う、という例だと思います。
水砥石とオイルストーン — 砥石メーカーのナニワ研磨工業は、オイルストーンについて「水の代わりに油を含ませて研ぐ砥石(油砥石)」と定義しています。素材が違うという説明で、日本の砥石は水を吸収しやすい砂岩、アメリカ産のノバキュライトは油分を多く含んだ硬い砥石とされています。用途も刃物の研磨だけでなく、自動車やバイク部品の研磨・平面だし、金属製品のバリ取り・面取りに使われるとあります。番手は「粗目80〜180、中目300〜500、極細#1000〜など」で、初心者には中目が推奨されていました。
硬さや減り方、研削性がどう違うのかは、この解説には書かれていませんでした。そのため、この記事ではその比較を扱いません。
読んでいて確認が必要だと思った点 — 自分の持っている砥石、あるいは買おうとしている砥石の番手表記が、どのメーカーの区分で言う「中砥」なのか。たとえば #1500 は、貝印の区分では中砥(800〜1000番)と仕上げ砥(2000〜3000番)の間に入り、確認した資料だけではどちらに分類されるのか判断できません。一方、藤次郎の区分では中砥(#600〜#2000)に含まれます。番手の数字だけ見て「中砥だから普段使い」と判断すると、想定と違う粗さを選ぶことになりそうです。
角度と動かし方、どこを意識するんでしょう
構える角度については、記述が揃っていました。
砥石に対して包丁を45度に構える、という点は實光刃物とZWILLINGで一致しています。刃の起こしは15度前後で、吉田金属工業が「砥石と刃の角度を15°くらい」、ZWILLING が「刃の起こしは15°」としています。対象はいずれも三徳包丁などの家庭用の両刃包丁です。ZWILLING は両刃と片刃を区別して記述していました。
ここで一つ、採用を見送った目安があります。
コイン法を書かない理由 — 刃の起こしの目安として「10円玉を何枚か挟んだくらい」という説明をよく見かけます。ところが枚数が資料によって違いました。吉田金属工業は15°を「10円玉1〜2枚程度の厚さ」とし、ZWILLING は同じ刃の起こし15°に対して「10円玉2〜3枚程度」としています。同じ角度に対して枚数が違う、という状態です。
實光刃物は枚数を研ぎ方で使い分けていて、両刃研ぎ全般では「10円玉1〜2程度起こします」、刃先のみを研ぐ小刃付けでは「10円玉2〜3枚分くらい起こして研ぐ」としています。研ぎ方で変わるという説明は筋が通りますが、これだと吉田金属工業と ZWILLING がどちらも15°に対して違う枚数を示している理由は説明できません。
さらに、刃幅や刃の種類、片刃か両刃か、コインをどこに置くのか(刃の背の下か、刃と砥石の隙間か)といった適用条件を、どの資料も枚数と結びつけて明示していませんでした。条件がわからないまま枚数だけ真似すると、意図した角度から外れる可能性があります。なのでこの記事では枚数を書きません。
動かし方 — 押しながら研ぐのか引きながら研ぐのか。今回確認した貝印と吉田金属工業の資料では、押す/引くの一方を特定する記述を確認できませんでした。貝印は「角度が変わらないようにしっかり持ち、手で支えます」とだけ記し、吉田金属工業は「無理に力を入れないでください」としています。
力の入れ方について断定できる根拠は、確認した範囲では持てませんでした。
読んでいて確認が必要だと思った点 — 他の解説でコイン法を見かけたとき、その枚数がどの角度・どの研ぎ方を前提にしているかが書かれているか。書かれていなければ、枚数をそのまま自分の包丁に当てはめない方がよさそうです。

研げたかどうか、どう確認するんでしょう
ここは「確認」と「後処理」と「作業中の安全」が混ざりやすい領域でした。読んでいて、3つは別のものだと整理しました。
研ぐ目標としてのバリ — 貝印の FAQ は「刃返りがでるまで砥いでください(両刃は両面砥ぐ)」としています。研ぎを止めるタイミングの目安が刃返り(バリ)で、両刃なら両面を研ぐ、という手順です。吉田金属工業も「刃先に『刃返り』という金属のまくれができてザラっとした感触がある」と記しています。
バリの後処理 — 貝印は「刃返りを新聞紙などでとります」としています。これは出たバリを除去する手順で、切れ味を確認する方法ではありません。新聞紙が出てくるとつい「紙で切れ味を試す話」と混ざりそうになりますが、別の話です。
作業中の安全注意 — 吉田金属工業の「無理に力を入れないでください」「指が砥石に当たり擦過傷を起こす」は、研いでいる最中の注意として書かれています。バリを確認するときの注意として書かれているわけではありません。
揃っていない点 — バリを指で触って確認する手順は、吉田金属工業・實光刃物・ZWILLING のいずれにも出てきます。ただし安全上の注意を併記しているのは吉田金属工業だけでした。實光刃物は「親指をあてて包丁の面に対して平行に刃先の方に親指を滑らせます」と動作を記していますが、注意の併記はありません。
つまり「安全な確認方法」として確立した手順を、メーカー公式から取り出すことはできませんでした。確実に言えるのは、貝印の「新聞紙などでバリを取る」という後処理の手順までです。
どのくらいの頻度で研ぐんでしょう
ここが番手に次いで揃っていなかった部分です。
| メーカー | 研ぐ頻度の目安 |
|---|---|
| 貝印 | 月に1〜2回(平砥石)。簡易砥ぎ器使用時は週に1度 |
| 吉田金属工業 | 月に1〜2回 |
| 實光刃物 | 毎日1度使う程度なら3ヶ月に1回。1年に1回は専門家のメンテナンス |
| ZWILLING | 週1〜2回料理するなら半年に1回。週3〜4回なら3ヶ月に1回 |
最短が月2回、最長が半年に1回です。間隔で見ると10倍以上の開きがあります。
ただし ZWILLING の書き方を見ると、条件が違うことがわかります。料理をする回数で目安を分けていて、使用頻度が高いほど研ぐ間隔が短くなる、という考え方です。實光刃物も「毎日1度使う程度であれば」という前置きがついています。
一方で貝印と吉田金属工業は、使用頻度の条件を付けずに月1〜2回としていました。同じ「月1〜2回」が、どのくらい使う家庭を想定した数字なのかは読み取れませんでした。
なので「月に1度くらい」という単一の目安としては書けません。会社によって月2回から半年に1回まで幅があり、その幅の一部は使用頻度という条件の違いで説明できる、というところまでです。
読んでいて確認が必要だと思った点 — 自分が週に何回包丁を使うか。そのうえで、参照する目安が使用頻度の条件付きかどうか。条件なしの数字を自分の使い方に当てはめると、研ぎすぎか研ぎ足らずのどちらかに寄りそうです。

整理してみて気づいたことと、次の一手
調べ始める前は「正しい研ぎ方を一つ覚えればいい」と思っていました。実際に各社の解説を読み比べてみると、そうではありませんでした。
揃っていたのは、粗砥から仕上げ砥へという順序、45度に構えること、刃の起こしが15度前後であること、バリが出るまで研ぐこと。このあたりは複数のメーカーが同じことを書いています。
揃っていなかったのは、番手の区切り、研ぐ頻度、コイン法の枚数、力の入れ方。番手と頻度は「どの会社の基準で言っているか」を確かめないと、数字だけでは判断できません。コイン法は適用条件がわからないので、自分は使わないことにしました。
書けなかったこともあります。切れない包丁が危険だという公的な裏づけ、油砥石と水砥石の硬さの違い、安全な切れ味の確認方法。どれもメーカーの解説だけでは埋まりませんでした。
そして自分はまだ砥石で研いでいません。だから研いだ結果については何も書けません。次は、ホームセンターか台所道具の専門店で実物を見てみることにします。番手の表記が各社でどう振られているのか、店頭で現物を見ながら確かめたいところです。
買い替える前に一度試してみる、という当初の方針は変わっていません。ただ「どの数字を信じて買うか」については、調べる前よりは慎重になりました。
Cover photo by Lukas Blazek on Pexels
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